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浦和地方裁判所 平成7年(わ)280号 判決

裁判所書記官

中澤智英

本店の所在地

埼玉県草加市瀬崎町一三一〇番地九

法人の名称

有限会社西陣

代表者の住居

埼玉県草加市瀬崎町一三一〇番地九

代表者の氏名

西川清こと李奎淵

国籍

韓国

住居

埼玉県草加市瀬崎町一三一〇番地九

会社役員

西川清こと李奎淵

一九三七年一月一九日生

右両者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官渡邉元尋出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社西陣を罰金四〇〇〇万円に、

被告人西川清こと李奎淵を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人西川清こと李奎淵に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社西陣は、埼玉県草加市瀬崎町一三一〇番地九に本店を置き、パチンコ遊技場の経営等を目的とする有限会社、被告人西川清こと李奎淵は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人西川清こと李奎淵は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の除外、架空仕入の計上及び被告人西川清こと李奎淵個人経営にかかるパチンコ店「谷塚会館」の仕入、経費を被告人有限会社西陣の仕入、経費に仮装するなどの方法により所得を秘匿したうえ

一  平成二年八月一日から同三年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億五九九〇万一〇〇四円であったのにも拘わらず、同年九月三〇日、埼玉県川口市青木二丁目二番一七号所在の所轄川口税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二九〇八万七四九〇円でこれに対する法人税額が一〇一四万七六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五九二〇万二八〇〇円と右申告税額との差額四九〇五万五二〇〇円を免れ

二  平成三年八月一日から同四年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億五二九五万九六八一円であったのにも拘わらず、同年九月三〇日、前記川口税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四五三一万七一五六円でこれに対する法人税額が一六二三万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九四〇九万九六〇〇円と右申告税額との差額七七八六万五八〇〇円を免れ

三  平成四年八月一日から同五年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億三六四五万二三三五円であったのにも拘わらず、同年九月三〇日、前記川口税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九二九〇万七二八二円でこれに対する法人税額が三三九六万二四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五〇二九万一七〇〇円と右申告税額との差額一六三二万九三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  大蔵事務官作成の機械装置調査書(甲23号証)

一  大蔵事務官作成の工具器具備品調査書(甲24号証)

一  大蔵事務官作成の土地調査書(甲25号証)

一  大蔵事務官作成の投資有価証券調査書(甲26号証)

一  大蔵事務官作成の保証金調査書(甲27号証)

一  大蔵事務官作成の保険積立金調査書(甲28号証)

一  大蔵事務官作成の支払手形調査書(甲29号証)

一  大蔵事務官作成の短期借入金調査書(甲30号証)

一  大蔵事務官作成の未払金調査書(甲31号証)

一  大蔵事務官作成の預り金調査書(甲32号証)

一  大蔵事務官作成の長期借入金調査書(甲33号証)

一  大蔵事務官作成の谷塚貸付金調査書(甲34号証)

一  大蔵事務官作成の代表者勘定調査書(甲35号証)

一  大蔵事務官作成の利子割調査書(甲36号証)

一  大蔵事務官作成の未払事業税調査書(甲37号証)

一  大蔵事務官作成のその他所得調査書(甲38号証)

一  大蔵事務官作成のP/L不突合調査書(甲39号証)

一  大蔵事務官作成のB/Sその他所得調査書(甲40号証)

一  西川蓮子こと姜蓮子の大蔵事務官に対する質問てんまつ書(甲44号証)

一  西川正憲の大蔵事務官に対する質問てんまつ書二通(甲45、46号証)

一  西川正煕こと李正煕の大蔵事務官に対する質問てんまつ書三通(甲47ないし49号証)

一  西川正治こと李正治の大蔵事務官に対する質問てんまつ書四通(甲50ないし53号証)

一  前田良子の大蔵事務官に対する質問てんまつ書四通(甲54ないし57号証)

判示全部の事実について

一  被告人の

1  当公判廷における供述

2  検察官調書(乙20号証)

3  大蔵事務官に対する質問てんまつ書一九通(乙1ないし19号証)

一  被告人会社の登記簿謄本

一  検察事務官作成の捜査報告書謄本(甲2号証)

一  川口税務署長作成の課税状況回答書(甲3号証)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書抄本(甲4号証)

一  大蔵事務官作成の仕入高調査書抄本(甲5号証)

一  大蔵事務官作成の給料手当調査書(甲6号証)

一  大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書(甲7号証)

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書(甲8号証)

一  大蔵事務官作成の諸会費調査書抄本(甲9号証)

一  大蔵事務官作成の消耗品費調査書(甲10号証)

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書(甲11号証)

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書(甲12号証)

一  大蔵事務官作成の保険料調査書(甲13号証)

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書(甲14号証)

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書(甲15号証)

一  大蔵事務官作成の事業税認定損調査書(甲16号証)

一  大蔵事務官作成のP/Lその他所得調査書(甲17号証)

一  大蔵事務官作成の現金調査書(甲18号証)

一  大蔵事務官作成の預金調査書(甲19号証)

一  大蔵事務官作成の建物調査書(甲20号証)

一  大蔵事務官作成の建物付属設備調査書(甲21号証)

一  大蔵事務官作成の構築物調査書(甲22号証)

一  陳正宇の大蔵事務官に対する質問てんまつ書二通(甲58、59号証)

一  禹政憲の大蔵事務官に対する質問てんまつ書(甲60号証)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(甲41号証)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(甲42号証)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書(甲43号証)

(法令の適用)

罰条

判示の各事実について、いずれも

被告人会社につき 法人税法一六四条一項、一五九条

被告人李奎淵につき 同法一五九条

刑種の選択(被告人李奎淵に対し) いずれも懲役刑選択

併合罪加重

被告人会社につき 平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下改正前刑法という)四八条二項

被告人李奎淵に対し 改正前刑法四五条前段、一〇条、四七条本文(犯情の最も重い判示二の罪の刑に加重)

刑執行猶予(被告人李奎淵に対し) 改正前刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、パチンコ店業を業務とする被告人会社西陣(以下被告人会社という)の代表者である被告人李が、被告人会社の法人税の確定申告に際し、平成三年七月期から同五年七月期までの三事業年度にわたり、内容虚偽の申告書を提出して合計一億四三二五万円余の法人税を免れたという法人税法違反の事案である。

被告人李は、初め個人でパチンコ店を開業して以来、徐々にその業態を拡充して、被告人会社に法人化した後、草加駅西口に被告人李がその将来の望みとしていた駐車場付き大規模店「パーラー・ドーム」を開業したが、これに伴う借入金の返済資金、及び将来の事業拡張資金を捻出したい、また、並行して個人で営んでいた「谷塚会館」の赤字を補填したいなどの気持ちから、本件脱税を行ったというもので、結局は法人を私物視して自らの利欲を追っていたと言えるその動機に同情すべき点はなく、その逋脱額は前記のとおり多額であり、逋脱率も七割強という高率であるから、その行為の違法性も強いうえ、その行為態様も、一日当たり三〇万円もの売上除外をし、あるいは個人営業の谷塚会館の経費の多くをつけ込み、また、一億円もの架空仕入れを計上するなどの露骨なものであるから、犯情も悪質というほかはない。

かかる犯行が横行するときは、納税者の高い倫理性を前提として成り立つ申告納税制度の存立を脅かし、租税の公平負担の原則を害して、納税者間の不公平感を助長し、ひいて、国民の納税意欲を減退させかねないから、被告人らの刑事責任には重いものがあると言うべきである。

しかしながら、他方、被告人李は、本件の事実関係を素直に認めて反省の情を示していること、本件においては、帳簿、伝票類の改竄や取引業者との通謀等の悪質な手段はとられておらず、手口は比較的単純素朴なものといえること、コンピューターを導入した経理の原始記録も保存されていて、査察に際しこれが提出され、事案の解明に資することとなったこと、被告人李において申告に際し逋脱の故意があったことは疑いの余地がないが、実際の申告作業を担当したと認められるいわゆる「商工会」関係者に対し、同被告人が意図的な指図等をした形跡は窺われないこと、本件後被告人李はそれまでの納税意識の不足を痛感し、経理の適正化の必要を自覚して、前記「商工会」への依頼を止め、定期的に税理士のチェックを受け得るよう対策を講じたことが認められるから、再犯の虞はないものと思われること、被告人会社は、本件が新聞等で報道され、また、本件後修正申告をして、本税・延滞税・重加算税等の国税分のうち合計三億二〇〇万円余を、また、地方税分九七〇〇万円余をそれぞれ支払い、その余も遠からず納付する予定であるから、これらにより被告人会社は実質的に相応の社会的制裁を受けたとも言えること、被告人李には前科前歴が全くなく、同被告人が在日外国人としての苦労に耐え、仕事に精励して今日を築いた点はむしろ評価すべきであることなど被告人李及び被告人会社に有利ないし酌むべき事情も認められるので、以上一切の情状を勘案して、被告人李及び被告人会社に対し主文掲記の刑を量定したうえ、被告人李に対しては、社会内における更生の機会を与えるを相当と思料し、その刑の執行を猶予することとした次第である。

よって、主文とおり判決する。

(裁判官 小池洋吉)

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